前田育徳会尊經閣文庫分館では、東京駒場の(財)前田育徳会が所蔵する文化財を、展示替えを行いながらご紹介しています。2月10日からは「春の優品選」と題した特集展示を行います。
菅原道真と前田家
前田家では、三代藩主利常の頃より、自分たちの先祖は菅原道真であると明言するようになります。そして、「東風吹かば」と詠んだ道真にちなんだ梅を、家紋と定めたのでした。以降、歴代藩主は道真を崇敬し、道真関連の文物の収集に励みます。中でも現在鎌倉市にある荏柄天神社の縁起を描いた重要文化財『荏柄天神縁起絵巻』(昨年展示済)は、よく知られた作品のひとつです。
はじめに、道真関連の作品の中から、「天神画像」を展示します。大宰府に送られる際、縄の上に座らされ、怒りの形相を見せる「縄敷天神画像」。道真がやがて唐へ渡り法衣を受けたとする「渡唐天神画像」など、さまざまな天神様の姿をご紹介します。
明治以降のコレクション
一方、明治時代に収集されたコレクションについては、あまり知られていませんが、これらは、明治43年に賜った明治天皇の行幸にまつわるコレクションがほとんどで、さまざまなエピソードが秘められています。
例えば、この季節にふさわしい『梅図』は、天皇を迎えるパフォーマンスとして描かれたものです。この日、前田邸日本館の和室には、六名の日本画家が控えていました。川端玉章・福井江亭・川端玉雪・荒木寛畝・池上秀畝・野口駿尾は、その場で天皇より『梅』という画題を与えられて、揮毫したのです。
中央に淡く幹を渡したのは、江亭。その下に鋭い枝振りを描いたのが玉章で、その署名の横には「行幸紀念」と記されています。その下に枝を伸ばしたのが、傘寿を迎えた寛畝と駿尾。画面上部に、見上げるように枝を這わせたのは、玉雪と秀畝です。
目前で揮毫するこうしたパフォーマンスは、江戸時代に流行した書画会を彷彿とさせます。前田家はさまざまな趣向をこらし、天皇を迎えたのでした。